裏山に到着した静香は、暗闇を見つめていた。いつもは昼間の太陽の光がとても暖かく照らしている空間。しかし夜ともなると、街灯もなく暗闇が支配する世界だった。ちょっと恐怖も感じるが、よく知ってる場所でもあるのでゆっくりと足を踏み入れた。
 あまり周りが見えないが、記憶をたどり山頂へ歩みを進める。目指しているのは一本杉だ。思わぬ段差につまずきそうになりながら、しかし確実に山頂に近づいていく。夜の闇の中、うっすらと一本杉が見えた。到着して振り返ると、目の前には町の夜景が広がっていた。家々の窓からこぼれる灯りがとてもキレイだった。
「わぁ、きれい……」
自分が全裸だということを一瞬忘れ、静香は目の前に広がる夜景に見とれていた。草の上に座ると、お尻に直接触れ新鮮な感触を覚えた。
「そうだ、あたし……裸だったんだ」
これからどうしよう…… 一抹の不安が頭をよぎる。無事に帰れたとして家についたらきっと親が心配しているだろう。そんな中に全裸で帰ったらなんて言われるだろう。さらに全裸で町を歩いて帰ってきたなんて……。自分ではどうしようもなかった。
 とその時、後ろで物音がした。あせってふり返ると、酔っ払いがフラフラ歩いているのが見えた。ひとときの安らぎの時間が終わった。静香は気づかれないようにこっそりと一本杉の陰に体を隠した。酔っ払いは最悪なことに静香の隠れている一本杉へ近づいてきている。もはや何もできない状態だ。いまここで逃げ出したりすれば逆に見つかってしまうだろう。幹をはさんですぐ後ろからその男のため息が聞こえてきた。心臓の音が聞かれてしまいそうだった。そしてその男は幹に寄りかかり座り込んでしまった。まったく動き出す気配がない。どうしよう……。しばらくそのまま待ち続けた。何やらわけのわからないことを言っている。酔っ払いのひとり言だが、静香には恐怖でしかなかった。当の本人はごきげんなのだろう、鼻歌を歌い始めた。
 ドサッという音が聞こえ、その男の頭が見えた。思わず声が出るのを必死でこらえた。ここで振り返られれば確実に見られてしまう。静香はゆっくりと音を立てないように見えた頭から逃げるように移動した。だが、頭だけを気にしすぎていた。頭が見えないように幹を回っていたら、男の足に触れてしまったのだ。
「んあ…… なんだぁ…… だれだ?」
気付かれた……。もう逃げるしかなかった。なりふりかまっていられる状態ではない。思い切って男の目の前を走って行く。
「おぉ? なんで女の子が裸でいるんだぁ?!」
タイミング悪く月が出ていて、その男に裸を見られてしまった。しかし立ち止まったりしたら何をされるかわからない。かまわず走り抜けた。
 ある程度はなれると、静香は男が追ってこないことに気づいた。ゆっくりと息をととのえる。そうか、酔ってたから動けなかったんだ。記憶もおぼろげだっただろうから静香のことも覚えていまい。一度大きく深呼吸をした。このあと再び恥ずかしい姿のまま町の中を歩いて帰らなければならないのだろうか。それに先ほど考えた家についてからのことが静香の歩みを止めさせた。親になんて説明しよう? 答えなど思いつくはずもなかった。しかしこのままここで立ち尽くしていると先ほどの酔っ払いが下りてくるかもしれない。と、その時。
「静香ちゃぁん!」
自分を呼ぶ声が聞こえた。聞き覚えのある声。思わず近くの藪に身を隠す。現れたのはのび太だった。手にはステッキを持っている。人探しステッキ、かすかに見覚えがあった。確実に見つかる。しかし、最悪の結果はまぬがれた気がした。
「のび太さん、ここよ……」
藪から顔だけを出して答える。
「静香ちゃん、よかった。」
「こっち来ないで」
静香と違い、すでに服を着ているのび太。あたしがこんな恥ずかしい思いをしているのになんで……。と腹も立てたが、今までの心細さからは確実に解放されていた。
「うちに静香ちゃんのママから電話があったんだ。まだ帰ってないって。だから心配で」
「このまま帰れないもん」
今までの心細さとこれからの解決策が見つからないといことで思わず目から涙があふれた。状況を理解したのび太にも解決策が思いつくわけもなく、とりあえず持っていたタケコプターを静香に渡し、一旦のび太の家に行くことにした。
 タケコプターを頭につけ、飛び立つ二人。静香にいたっては夜とはいえ全裸で空を飛ぶというとても恥ずかしいことをしてしまうがこの際仕方ない。のび太に振り返らないようにきつく言い、飛び続けた後のび太の部屋に入った。のび太にタオルを借り、ようやくさらし者の状況を脱した。その後、着せ替えカメラを使い、衣装を着たあとタイムマシンに乗り、熱気球に乗って飛び立ったあとの時間に戻ってもらった。無事に帰り着いた静香は、のび太に腹を立ててはいたが、心配で探しにきてくれたことで心の底では許していた。あの忌まわしい出来事を覚えているものは他にはいない。大きな安心感が静香を包んでいた。

(終わり)